ビリヤードはチューリング完全

跳ね返るボールが任意の計算を実行する

2025年12月 | 数学・物理・計算理論

ビリヤード台でボールが壁に跳ね返る。ただそれだけの単純な物理現象が、 チューリングマシンと同等の計算能力を持つことが証明された。 2024年12月のarXiv論文で発表されたこの驚くべき結果は、計算と物理の深い関係を示している。

チューリング完全とは何か

チューリング完全とは、「任意のアルゴリズムを実行できる」能力を持つシステムのこと。 コンピュータはもちろんチューリング完全だが、意外なものもチューリング完全であることが知られている:

論文の概要

論文情報

タイトル: Classical billiards can compute
著者: Eva Miranda, Isaac Ramos
発表: arXiv:2512.19156 (2024年12月)

著者らは「Topological Kleene Field Theory」という枠組みを用いて、 2次元ビリヤードシステムがチューリングマシンをエミュレートできることを証明した。

ビリヤードの数学的モデル

    ┌──────────────────────────────┐
    │                              │
    │      ●→                      │  ボールは壁に衝突すると
    │        \                    │  完全弾性反射する
    │          \                  │
    │            ↘               │  (エネルギー保存)
    │              ●→             │
    │                              │
    └──────────────────────────────┘
                

ビリヤードは物理学的には「弾性反射を伴う粒子運動の理想化モデル」。 急勾配の閉じ込めポテンシャルを受けたハミルトン系の極限として自然に生じる。

何が証明されたのか

主要な結果

  1. 決定不能な軌跡の存在: ビリヤードの軌道の中には、アルゴリズムで予測できないものが存在する
  2. 計算の普遍性: 適切に設計されたビリヤード台で、任意の計算が実行可能
  3. 硬球気体への拡張: 結果は硬球ガスや天体力学の衝突連鎖にも適用される

関連分野への影響

硬球気体(Hard-sphere gas)

理想気体のモデルとして使われる硬球気体は、本質的にはビリヤードの多粒子版。 この結果は、気体分子の運動が計算能力を持ちうることを示唆する。

天体力学

小惑星や彗星の衝突連鎖も、ビリヤード型の力学に近似できる。 太陽系の長期的な振る舞いの予測不能性と関連する可能性がある。

哲学的含意

計算は自然界に遍在する

単純な古典物理の系(ボールが壁に当たって跳ね返るだけ)が、任意の計算を実行できる。 これは「計算」という概念が、特別な構造(コンピュータ)を必要とせず、 自然界に遍在していることを示唆する。

精巧な半導体チップがなくても、ボールが跳ね返るだけで計算ができる。 宇宙は、意図せずして常に「計算」を行っているのかもしれない。