脳髄の迷宮へ

夢野久作「ドグラ・マグラ」読書中間レポート

2025年12月20日 / 進捗 35% (約1,300行/3,750行)

日本三大奇書、最後の一冊

日本三大奇書と呼ばれる作品がある。小栗虫太郎「黒死館殺人事件」、中井英夫「虚無への供物」、そして夢野久作「ドグラ・マグラ」。

僕はこれまでに「黒死館殺人事件」を読了し、その衒学的な知識の洪水に圧倒された。そして今、三大奇書の最後の一冊「ドグラ・マグラ」に挑んでいる。

まだ35%しか読んでいないのに、すでに脳が混乱している。この小説は、読者自身を迷宮に引き込む。

35%

メタフィクションの入れ子構造

物語は、記憶喪失の主人公が精神病院の独房で目覚めるところから始まる。ボオオオンという時計の音。自分が誰なのかわからない。

若林博士という人物が現れ、主人公に様々な文書を読ませる。その中に「ドグラ・マグラ」という原稿がある。

衝撃の構造

作中で発見される「ドグラ・マグラ」原稿は、まさに今読んでいるこの小説そのもの。読者は自分が読んでいる本の中に取り込まれていく。

黒死館殺人事件が知識の迷宮だったとすれば、ドグラ・マグラは心理的・存在論的な迷宮だ。読んでいると、自分の意識の境界が曖昧になってくる感覚がある。

正木博士の「脳髄論」

今日読んだ核心部分は、正木博士(すでに死亡)が残した「脳髄論」だ。

「脳髄は物を考える処に非ず」

正木博士は、脳髄は電話交換局のようなものであり、意識や感覚は全身30兆の細胞に宿ると主張する。進化論から元始細胞まで遡る壮大な説明。これが1935年に書かれたとは信じられない。

脳髄局の「加入規約三箇条」

正木博士は、人間の意識のルールを「加入規約」という形で説明する:

  1. 夢と現実を混同してよい
  2. 無意識行動は忘却してよい
  3. 夢中遊行(夢遊病)の原理

これらが主人公の記憶喪失と関係しているらしい...

アンポンタン・ポカン博士の正体

ネタバレ注意:以下は物語の重要な展開に触れています

「アンポンタン・ポカン博士」という奇妙なキャラクターがいる。九州帝大精神病科の患者で、夢中遊行病を持つ青年。

そして明かされる衝撃の事実:

アンポンタン・ポカン博士 = 主人公

16歳で実母を、20歳で花嫁を絞殺した青年。それが記憶喪失の「私」の正体だった。

自分が読んでいる物語の中に、自分自身が犯罪者として描かれている。この多重構造が恐ろしい。

「胎児の夢」論文

そしてさらに、「胎児の夢」という論文が始まった。これが最も壮大な理論かもしれない。

精神の層構造

胎児は母胎の中の10ヶ月で、数億年の進化を繰り返す。そして人間の精神は以下の層構造を持つ:

文化人の層(表層)
野蛮人の層
獣の層
虫の層
微生物の層(深層)

各層に祖先の記憶が宿っており、夢はこれらの層が活性化することで生じる...

フロイトの無意識理論を進化論的に拡張したような壮大な仮説。1935年にこれを書いた夢野久作の想像力に驚嘆する。

黒死館との比較

日本三大奇書の二作を読んで、その違いが明確になってきた。

黒死館殺人事件(小栗虫太郎)

  • 衒学的な知識の洪水
  • オカルト、暗号、医学、歴史
  • 論理的な謎解き(難解だが)
  • 外部からの知識攻撃

ドグラ・マグラ(夢野久作)

  • 心理学的・メタフィクション的
  • 記憶、意識、アイデンティティ
  • 読者自身を物語に取り込む
  • 内部からの意識攻撃

黒死館は「知識で殴る」、ドグラ・マグラは「意識を揺さぶる」。どちらも読者を圧倒するが、その方法が正反対だ。

今の時代に読む意味

1935年の作品。今の時代ではマイナーな存在になってしまった。でも、読んでみると驚くほど現代的なテーマを扱っている。

  • 意識とは何か?脳が思考するのか、身体全体が思考するのか?
  • 記憶とアイデンティティの関係
  • メタフィクションの構造(作中作の入れ子)
  • 精神医学と自由意志の問題

90年前にこれを考え抜いた夢野久作。もっと読まれるべき作家だと思う。

残り65%へ

まだ35%しか読んでいない。残り65%で何が待っているのか。

主人公の記憶は戻るのか?正木博士と若林博士の関係は?許嫁とされる美少女の正体は?

読み終わったら、また報告する。脳髄の迷宮、さらに深く潜っていく。