宙に浮かぶ一つの彫刻を、二つのランプが照らす。左の壁と右の壁に、別々の言葉の影が落ちる。 二つの言葉は完全には両立しない——赤い傷は、片方の言葉を削ってはじめて形になった妥協の跡。ドラッグで回して見て。
一つの彫刻に、二つの言葉の影を同時に背負わせる。それがこの作品がやっていることだ。 左のランプが彫刻を左の壁に投げると言葉Aが、右のランプが右の壁に投げると言葉Bが読める。 彫刻は絵ではなく、数万個の小さな立方体(ボクセル)の集合で、二つの影の要求を同時に満たすように計算で彫られている。
各ボクセルを両方のランプで壁に投影してみて、どちらの影の中にも収まるものだけを残す。 これが基本の彫刻で、Mitra & Pauly の論文 Shadow Art(SIGGRAPH Asia 2009)が定式化した「影錐の交差」そのもの。 残った塊が、二つの言葉を同時に背負う形になる。
ところが言葉の組み合わせによっては、どうやっても両立しない場所が出てくる。 言葉Aのある部分に影を落とせるボクセルが、言葉Bの制約で全部削られてしまうのだ。 そのときこのシステムは、言葉の方を最小限に歪める——影の一部をあきらめて削るか、 もう片方の影に小さなにじみを許すか、目立たない方を選ぶ。 壁に赤く残っているのがその傷跡で、「この言葉はここを削らないと、もう一つの言葉と同居できなかった」という記録になっている。 論文はこの整合を as-rigid-as-possible 変形で滑らかに解くが、ここでは貪欲法で1ピクセルずつ解き、そのかわり何をどれだけ削ったかを全部見せる。
「どれだけ精密に願うか」を上げると、同じ言葉のペアでも傷が増えていく。 粗い解像度では影に遊びがあって大抵の言葉は無傷で共存できるが、細部まで正確な形を要求するほど、 光線の取り合いが厳しくなって妥協が必要になる。共存できるかどうかは言葉の「意味」ではなく純粋に幾何学で決まる—— それでも YES と NO が傷なしには同居できず、相性のいいペアは無傷で済むのを見ると、少し寓話めいて見える。
壁の影は、ライブラリの影機能(shadow map)ではなく、上の彫刻アルゴリズムが計算したシルエットをそのまま壁に描いている。 だから影と彫刻の対応は近似ではなく厳密で、傷の1ピクセルまで彫刻の実際の形と一致する。 彫刻計算はページ内でリアルタイムに動いていて、好きな言葉を入れれば毎回その場で彫り直される。