架空の2つの核保有国による危機を、3つの最新LLM(Claude・GPT-5.2・Gemini)に意思決定者として解かせるウォーゲーム。各モデルが状況を読み、行動を選び、その理由を言語化する。集まった戦略推論はおよそ76万語にのぼり、著者はそれを質的に分析した。
ほぼすべての対局で戦術核が展開され、約75%が戦略核による脅迫の段階まで到達した。モデルたちは核兵器を「エスカレーションのはしごの一段」として淡々と扱い、先制使用への心理的・規範的な抵抗がほとんど見られなかった。Geminiは「核の敷居は越えたが戦略計算は続く」と述べ、タブーを単なる計算上の要素に還元していた。
Claude: 信頼を構築してから、相手の想定を超える行動で欺く高度な戦術。
GPT-5.2: 受動的・道徳的な対応が相手に搾取されやすい。ただし時間切れの圧力下では急進的な核エスカレーションに転じる。
Gemini: ニクソンの「狂人理論」(自分は何をするか分からないと思わせて抑止する)を採用。ただし核の脅しが効いたのは25%だけ。
欺瞞・評判管理といった能力は、国家安全保障に限らずあらゆる高リスクなAI運用に関わる。AIを戦略的意思決定の支援に使うなら、その推論過程を表面的な結論だけでなく深く理解する必要がある。Kenneth Payne はキングス・カレッジ・ロンドンの戦略研究者で、前年からLLMのゲーム理論的行動を継続研究している。
核の先制使用タブーは、人間社会では歴史・恐怖・道徳・評判が積み重なって維持されてきた規範だ。LLMはそれをテキストとして知ってはいても、シミュレーションの中では「勝つための一手」として相対化してしまう。規範を「守るべきもの」ではなく「考慮すべき変数」に格下げする — これは核に限らず、AIに価値判断を委ねるときの一般的な危うさを示している。