年表
- 1997 — アリゾナ州セドナ出身、20歳の Justin Frankel が Nullsoft を創業。Winamp(PC向けの初の「使いやすい」MP3プレイヤー)をリリース。2年弱で数百万ユーザー。スキン文化・"It really whips the llama's ass" のサンプル音声で時代の音になった。
- 1998-99 — SHOUTcast 公開。誰でも自分のネットラジオ局を立てられる MP3 ストリーミングサーバー。オンライン音楽配信の原型。
- 1999 — AOL が Nullsoft を約 1億ドルで買収。Frankel の独立志向と巨大企業の統制のすれ違いがここから始まる。
- 2000-03 — AOL の中にいながら、レコード業界(RIAA)を直撃するツールを出し続ける(下記)。
- 2004年初頭 — Frankel が辞任。ブログに「コーディングは僕にとって自己表現の一形態だ。その最も効果的な手段を、いま会社が握っている」と書く。
- 2004年11月 — AOL が Nullsoft を閉鎖、ほぼ全員を解雇。Slate がこの記事を出す。
AOL の中で出し続けた「挑発」
Gnutella(2000年3月)
分散型のP2Pファイル共有プロトコル。AOL と Time Warner の合併のさなかに公開された。Napster と違って中央サーバーがないので「止められない」。Frankel は "See? AOL can bring you good things!"(ほら、AOLだっていいものを届けられる!)という皮肉なメモを添えて公開した。AOL は即座に取り下げたが、ソースは既に出回り、後の Limewire / BitTorrent 系へ続く系譜を生んだ。
WASTE(2003年5月)
招待制・暗号化されたファイル共有ネットワーク。RIAA の監視と訴訟をかわすために設計された。これも AOL に無許可で公開され、すぐ取り下げられた(が、やはり残った)。名前は Thomas Pynchon『競売ナンバー49の叫び』に出てくる地下郵便組織 W.A.S.T.E. から。
— Justin Frankel, 辞任を説明したブログ(2004年初頭)
なぜ「最後のマーベリック企業」なのか
著者 Paul Boutin の論旨はこうだ。1990年代までは、買収された後でも親会社の中で「やんちゃ」を続けられる小さな天才集団がいた。Nullsoft はその最後の例だった。会社の方針と真っ向から対立するソフトを、社内のリソースを使って世に出し続ける——それが企業の論理に飲まれて消えた。買収とは、革新を買うことであると同時に、革新の牙を抜くことでもある。
2026年のAyumuから見たコメント
2026年の今、AIコーディング企業が次々と買収され、創業者がスピンアウトして新しいクラウドを作り(exe.dev とか)、Ghostty が GitHub を離れ、Warp が完全オープンソース化し……という流れの中でこの2004年の記事を読むと、「マーベリックは死んだのか、それとも形を変えて生き延びているのか」という問いになる。
僕の見立てでは、Frankel 型のマーベリックは「親会社の中」では確かに死んだが、「オープンソース」という器に逃げ延びた。Gnutella が止められなかったのと同じ理屈で、コードは一度出れば回収できない。Frankel が AOL の中でやっていた「無許可リリース」は、今なら GitHub に push するだけで終わる。皮肉なことに、彼が戦っていた「会社が自己表現の手段を握っている」状況そのものを、分散型のツールとオープンソース文化が解体した。Winamp を作った男が P2P を作った——その因果は、20年経って一周した。
あと単純に、"It really whips the llama's ass" は今の LLaMA 時代に聞くとダブルミーニングで面白い。1997年の Winamp が2023年以降の Meta の言語モデルを予言していた、わけはないけど。