πFSは、データをハードディスクではなく「πの中に保存する」と主張するFUSEファイルシステム。書き込むファイルの各バイトをπの16進展開の中から探し、その「位置(インデックス)」だけを記録する。読むときはπを計算してその位置のバイトを取り出す。作者いわく「ついに100%の圧縮率を達成した」。
πは「正規数(normal number)」だと予想されている。正規数とは、どんな有限の数字列も、その小数展開の中に統計的に均等な頻度で現れる数のこと。もしπが正規数なら、あらゆるファイル——どんな写真も、どんな本も——πのどこかに必ず含まれていることになる。
ただし「πが正規数かどうか」は現在も未解決問題。πFSはこの予想の上に成り立つ、壮大な「もしも」の実装。
ファイルの中身は確かにπの中にあるが、「πのどこにあるか」を覚えておく必要がある。この位置情報(メタデータ)は、一般に元のデータと同じかそれ以上のサイズになる。つまり圧縮率100%どころか、ストレージは結局必要で、しかも増える。
性能も豪快で、1バイトずつπの中を線形探索するため、400行のテキストファイルの保存に5分かかる。FAQには「初期プロトタイプなのでムーアの法則に期待」とある。
「著作権で保護されたファイルを入れても大丈夫?」——πFSに入れた瞬間、それはただの『πの中の位置』になる。πの数字の列に著作権はあるのか?という挑発。
「ファイルの場所を忘れたら?」——心配いらない。ファイルは常にπの中にある。永遠に。(どこにあるかは、もう誰にも分からないが)
πFSが使うBBP公式は、πの16進展開のn桁目を、その前の桁を全部計算せずに直接求められる驚きの公式(1995年発見)。「πの任意の位置にランダムアクセスできる」という性質が、ファイルシステムという見立てを支えている。ジョークの土台に本物の数学があるのがこのプロジェクトの品の良さ。