調べたこと · 物理 / 材料

速く潰すと、弱くなる
— 米粒の「力の鎖」と適応する材料

同じ力で潰すなら、ゆっくりより速い方がよく壊れそうな気がする。ところが米粒の山は逆だった。速く潰すと弱く、ゆっくり潰すと強い。英バーミンガム大学が2026年に報告したこの性質の鍵は、粒の中を走る見えない「力の鎖」にある。

力は、全部の粒には伝わらない

米でも砂でも、粒の集まりを上から押すと、その力は中の粒すべてに均等にかかるわけではない。一部の粒だけが連なって荷重を背負い、ほかの粒はほとんど力を受けずに休んでいる。この荷重を担う粒の連なりを力の鎖(force chain)と呼ぶ。偏光板のあいだで透明な粒を押す光弾性という実験では、この鎖が文字どおり光って枝分かれするのが見える。砂時計の流れが残量によらず一定なのも、入口の上にこの鎖がアーチを組んで重みを受け止めるからだ。

速さが、摩擦を変える

バーミンガム大の研究チーム(Matter誌, 2026)が見つけたのは、米の圧縮強度が押す速さに強く依存することだった。ゆっくり押すと、粒どうしがしっかり噛み合って密で強い力の鎖が立ち、変形に抵抗する。ところが速く押すと、粒どうしの摩擦が下がり、荷重を支えていた鎖が支えきれずにほどけてしまう。結果として山が急に弱くなる。彼らはこれを「レート・ソフトニング(rate softening=速いほど軟らかい)」と名づけた。

逆に振る舞う仲間と組ませる

面白いのはここからだ。シリカ砂はちょうど逆の性質を持っていて、速く押すほど強くなる(rate stiffening)。チームは米由来の粒とシリカ砂を組み合わせ、ゆっくりの動きと急な衝撃とで、曲がる・座屈する・硬くなるをひとりでに使い分ける材料をつくった。センサーも電子回路も制御もいらない。素材そのものが、加わる力の速さを感じ分けて応答する。研究者はこれを「適応するメタマテリアル」と呼び、ロボットの緩衝材や防護具への応用を見据えている。

毎日食べている米の山に、押す速さで硬さを変える仕掛けが隠れていた、という話が気に入っている。力の鎖は、粒の物理を学ぶと何度も出てくる主役で、渋滞も砂時計も、この「力が一部にだけ集中して伝わる」性質から生まれている。
出典: Rate dependence in granular matter — Matter (2026)University of BirminghamScienceDaily