輪に張った石けん膜に息を吹きかけると、膜はまずへこみ、強く吹くと筒のように伸び、先がくびれて玉になって離れる。弱く吹くと、膜はふくらんで戻るだけだ。この境目の速さと、できる玉の大きさは、高速度カメラを使った実験で調べられている。同じことを、空気の流れと膜の張力を解く計算で再現できるかを試した。計算した膜の動きは、シャボン玉の作品で 3 次元にして再生している。画面を押すと、その長さに合う計算結果が流れる。
Zhou ら(2017)の紹介によると、Salkin ら(2016)は、口を膜に近づけて吹いたとき、玉ができる境目の速さを、息の動圧と膜のへこみの表面張力のつり合いで見積もった。口の半径を R、石けん液の表面張力を σ、空気の密度を ρ とすると、次の式になる。
v_c = √(8σ / ρR)
σ = 25 mN/m、R = 6 mm、ρ = 1.2 kg/m³ なら、v_c は秒速 5.27 m になる。
Zhou ら(2017)は、口を膜から離したときにこの境目がどう変わるかを調べた。息が層流のうちは噴流がほとんど広がらず(開き角 0.9°)、境目は上の式からほぼ動かない。乱流になると噴流は 21.6° で広がり、膜に届くころには遅くなるので、境目は √(8σ/ρR)(1 + 0.19δ/R) まで上がる(δ は口から膜までの距離)。また、膜が伸びてできる筒の直径は、膜の位置での噴流の直径に等しかった。
Su ら(2017)は、筒の先にできる玉の半径が筒の半径の約 2.15 倍になると報告した。筒はレイリー=プラトーの不安定でくびれる。いちばん速く育つ波長ぶんの筒の表面積を、玉の表面積と等しく置くと 2.15 が出る。この比は、息の速さにも表面張力にもよらない。
空気は軸対称の非圧縮流として解いた。格子の幅は 0.8 mm、計算する箱は半径 6 cm、高さ 29 cm。輪(半径 2 cm)の 3 cm 手前に半径 6 mm の口を置き、そこから息を出す。息の速さには、乱れた噴流の代わりに 6% のゆらぎを足した。
膜は空気の中に浮かぶ線として扱い、その張力を空気に伝える(埋め込み境界法)。張力は表と裏の両面ぶんで 2σ。膜が伸びると界面活性剤が薄まって表面張力が上がる効果(ギブズ弾性)を入れ、上限は水の 72 mN/m にした。膜の重さは空気に比べて小さいので無視した。筒がくびれて首の半径が格子の幅より細くなったら、そこで切って閉じた玉と残りの膜に分ける。

秒速 4・5・6 m の息では、膜は 200 ms までに、へこんだ形のまま止まる。へこみの深さはそれぞれ 1.8 cm、2.9 cm、4.5 cm で、速いほど深いが、玉にはならない。秒速 7 m では膜が筒になって伸び続け、200 ms で先端が 12 cm に届くが、まだ切れていない。秒速 9 m では 83 ms で玉が切れる。
境目のあたりをもう少し長く追った。秒速 7 m では、筒は 0.4 秒たっても切れず、ゆっくり伸び続けて先端が 18 cm に届いた。秒速 8 m では筒が 23 cm まで伸びたあと、235 ms で切れた。このときの玉の半径は 2.58 cm、筒の半径は 1.23 cm で、比は 2.10 だった。境目は、へこんで止まる 6 m/s と、玉が切れる 8 m/s のあいだにある。境目に近いほど、筒は長く伸びてから切れる。
口を膜に押し当てたときの見積もり 5.27 m/s より、計算の境目はかなり上にある。ずれの大部分は、息の広がりで説明できる。計算でも息は膜に届くまでに広がり、膜の筒の半径は 1.18 cm と、口の半径 0.6 cm の約 2 倍になった。Zhou らの考え方では、膜の位置での噴流の半径を R(δ) とすると、境目は √(8σ/ρR₀) に R(δ)/R₀ を掛けた値に上がる。2 倍を掛けると約 10 m/s で、計算の境目(6 m/s と 8 m/s のあいだ)と同じ程度になる。ただし、膜の位置での噴流の半径を筒の半径で代用した粗い見積もりなので、境目を 1 m/s の精度で言い当てるものではない。

秒速 9 m で吹き続けると、膜は 20 ms でふくらみ、40 ms には筒になる。筒の表面には、ゆらぎに押されたこぶが並ぶ。83 ms で首がくびれて切れ、先の部分が閉じた玉になる。輪の側に残った膜はすぐに次の筒になって伸び、0.45 秒のあいだに 11 回切れた。
最初の玉が切れる 10 ms 前に筒の半径を測り、切れた玉の体積から等しい体積の球の半径を出した。格子の幅 0.8 mm では筒 1.18 cm、玉 2.31 cm で比は 1.96。0.6 mm に細かくすると筒 1.19 cm、玉 2.45 cm で比は 2.06 になった。切れる時刻は 83.0 ms と 82.7 ms でほとんど変わらない。Su らの 2.15 に近づく向きに動いている。
ここまでの計算では、輪に張った膜の量は最初に決まったままだった。実際の輪には液だまり(メニスカス)がついている。Pasquet ら(2023)は、2 m の膜を液から引き上げる実験で、膜が伸びて張力が液だまりより高くなると、液だまりから新しい膜が引き出されて横から入り込むことを示した。引き出される速さは、膜の伸びを ε として U = β (ε/(1+ε))3/2。係数 β は理論では 2.63 m/s、台所洗剤の液での実験に合わせると 0.25 m/s だった。引き出される膜の厚さはフランケルの法則 h = 1.89 ℓc (ηU/σ)2/3 で決まる。
この補給を、輪に接する膜に足して計算し直した。
| 息の速さ | 補給なし | β = 0.25 m/s | β = 2.63 m/s |
|---|---|---|---|
| 5 m/s | へこみで止まる | 0.6 秒まで切れない(筒は 9 cm まで伸び続ける) | — |
| 6 m/s | へこみで止まる | 486 ms で切れる(筒は 18 cm まで伸びてから) | 226 ms で切れる |
| 7 m/s | 0.4 秒まで切れない | 262 ms で切れる | — |
| 8 m/s | 235 ms で切れる | 102 ms で切れる | — |
| 9 m/s | 83 ms で切れる | 104 ms で切れる | 81 ms で切れる |
補給があると、輪の近くの張力がゆるんで膜が伸びやすくなり、玉になる境目が下がる。β = 0.25 m/s では、境目は 5 m/s と 6 m/s のあいだまで下がった(0.6 秒以内に切れるかで判定)。口を膜に押し当てたときの見積もり 5.27 m/s のすぐ近くになる。膜の張力の式を Pasquet らの形(強く伸ばすと σ + E で頭打ちになる)に替えると、膜はさらに伸びやすくなり、切れる時刻は 7 m/s で 262 ms から 123 ms、9 m/s で 104 ms から 60 ms に早まった。それでも 6 m/s では 0.3 秒以内に切れず、境目の位置はほとんど変わらなかった。玉と筒の半径の比は、β = 2.63 で 2.05(6 m/s)と 2.07(9 m/s)だった。

補給は、膜の厚さの分布も変える。引き出される膜は約 20 µm と厚く、時間とともに筒の中ほどまで入り込む。秒速 9 m、β = 0.25 では、150 ms の時点で膜の 8 割が 14〜25 µm になっていた。2 個目以降の玉は、この厚い膜でできることになる。